2015年11月28日

笑い飛ばす力

冷静になれば、原因はただのコミュニケーション不足だとわかるのだが、カッとなっている間は、原因追及はおろか、相手の揚げ足を取って、怒りが再燃。私はいつまで経っても子どもである。

先日、娘のわがままな言動に苛立ち、ついカッとなって怒ってしまった。叱ったのではない。怒ってしまったのだ。言葉が達者になってきた娘とは水掛け論が続く。いい大人が小学校2年生相手に恥ずかしいことではあるが、カッとなった頭は早々には冷めない。自分でも驚くほど、刺々しい言葉が口から出る。

「あの時もそうだった」などと、脳が既にクローズした案件までを引き出してくるから厄介だ。どうやら私の脳は、怒りを鎮めるのではなく、似たような出来事を引っ張り出す方が得意らしい。

しばらくすると空しさが一気に襲い来る。互いを責めつくしたって何も残らない。スッキリ感もない。ただ、後悔ばかりである。もう何度も経験しているのに、なぜ私の脳は学習しないのだろう。

私が子どもを育てることが間違っているのだろうか。この子は私の子に生まれて幸せなのだろうか。他のお母さんたちは、どうやって子どもと向き合っているのだろうか。他人の親子関係がとてもうまく行っているように映り、自分だけがうまくやれないという劣等感。

私は負のスパイラルにずっぽりと嵌ってしまった。

その時、突然「パンタナルのレースでさ」と、隊長が話を始めた。「ブラジル人がどんだけ陽気かってのがよくわかったよ」。え?今言うこと?

「あるCP付近で複数のブラジルチームと一緒になったんだよ。もう暑くて辛くて、疲労が蓄積していて、俺たちもブラジリアンも、みんなフラフラ状態なわけ。

でもさ、ブラジルの人たちって、ずっとゲラゲラ笑ってるんだよ。暑さにやられたかと思うくらい。ともかく陽気なんだよ。

彼らね、CPまで後数キロってところで道に迷ってさ。すぐそこにCPがあるなら、俺たちだったら焦りまくるけど、彼らは急に座りだして休憩してんの。ゲラゲラ笑ってんの。

他のチームも傍にいるし、一刻も速くCPに着きたい。こういう場合、メンバーがナビゲーターに『しっかりしろよ!』って叱責することが多いけど、彼らはチーム全体が平気な様子。『じゃ、北に行ってみよっか』って、ゲラゲラ笑いながら方向を決めて、ゲラゲラ笑いながら立ち上がって北に行っちゃった。ともかく明るいんだよ。それがず〜〜〜〜っと変わらない。最後までゲラゲラ笑ってんの。すごくメンタル、強いな〜って思った」

確かに今回のレースでは、ブラジルチームは強かった。地元だし、暑さに強いのかと思っていたが、どうやら鍵は、その明るさにあるようだ。

隊長は言う「あんなに辛いレースなのに、彼らは楽しそうなんだよ。辛さですら、楽しんでいるという余裕を感じた」と。

ナビゲーターが余裕もなくギスギスしたら、メンバーに不安を与えてしまう。もっと迷うかもしれない。そんな時は、メンバーの「気にすんな。次行こう!」という言葉は、どれほど励みになるだろう。責めずにゲラゲラ笑い飛ばす。そんなチームであれば、辛いはずのレースもなんだか楽しい。

子育ても、ある意味、アドベンチャーレースに似ているかもしれない。

娘につい求めすぎていた。娘がその要求を満たせないと、ついカッとなってしまっていた。責めたところで、いい結果は出るはずもない。ならば「これもこの子の個性」と捉え、少しの苛立ちも笑い飛ばすことができれば、どんなに気楽になるだろう。

笑い飛ばす力。これが私に欠けていることかもしれない。「ちいさなミスを積み重ねれば、重大な事故につながる」というのはよく解る。が、場合によっては「小さなミスは、ひとまず笑い飛ばしてみる」というのも、アリなのかと思う。

娘は元気に育っている。それだけで十分。多少のわがままは、彼女の個性。そもそも小学生の時にわがまま言わずして、いつ言うのだ。物事をもっと大きく捉えて笑い飛ばす。子どもが不安にならないように、「気にすんな。次行こう!」と励ます。そんな母でいたいと思う、ブラジルチームからの教えである。

お蔭で頭が冷めた。隊長の「今、それ言うこと?」って挿入話は、実にタイムリーだった。


posted by Sue at 08:31| Comment(0) | 愚母の苦悩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月17日

アドベンチャーレース世界選手権 in パンタナル(ブラジル)に想うこと

アドベンチャーレース世界選手権2015の火蓋が切られた。「やっとスタートした」という安堵感。今回はスタートラインに立つまでが、本当に大変だった。

そもそも最初にこのレースの話が来た時は、正直、反対だった。3ヶ月後の2月には本命のパタゴニアレースがある。それまでに身体的ダメージが回復するのか、資金はどうするのか、ヨーキがいなくてレースができるのか、何より女性メンバーはどうするのか。マチマチ(西井万智子)は、まだ国内のレース経験すら少ない。海外レースに出るだけの技術もない。考えれば考えるほど分が悪い。

反対だった私は、事務局としての役割を躊躇した。ヨーキの代わりになるメンバーなんて早々に見つかるものではないし、マチマチだって、ハイウォーター(増水期)のリバーガイドにだって(当時は)まだなっていない。そんな状況だもの、出場するだけ資金がもったいない。だったら、2月のパタゴニアレースに向けて意識を集中した方がよっぽどいい。そう思っていた。

「今回は無理だよ」気乗りしない私に対し、隊長は言った。「無理って壁は自分が作る。俺はやる。絶対にやる」。私は、その熱意に折れた。

私の意に反して、事は動いた。いや、隊長が動かし始めた。まずはメンバー探し。ヤマキー(山北道智)は、2月にパタゴニアレースを控えている。ヤマキーの愛妻は二人目の子がお腹の中にいる。しかも11月が出産予定。仕事もそんなに休めるはずもなく、お産を控えた家族も大変な真っ最中。しかし、ヤマキーからは「行きます」とふたつ返事が返ってきた。

そしてもう1名の男性メンバー。レースでは重要な鍵となる。国内のアドベンチャーレーサーの中でも最も顔が広いワッキー(和木香織利。元イーストウインドのトレーニング生でパタゴニアレースに出場)に相談したところ、ハニくん(高濱康弘)の名前があがった。ワッキーの話から、彼の性格がイーストウインドに合うと直感した。国内のレースもいくつか経験があるし、成績も良い。しかし、お固い企業のサラリーマンである。1カ月近くも休みが取れるかどうか。ハニくんにラブコールを送ったところ、「誰にでもあるチャンスじゃないから」と、彼は会社も家族も説得して出場を決めた。彼ならやってくれる。私たちは、ヨーキの代わりではなく、新メンバーとしてハニくんを迎えた。

残るは女性メンバー。マチマチは難しい。そう隊長は思っていた。経験も浅いし、技術も不足しているが、何より彼女のマイペースさが引っかかっていた。また思ったことを口に出さない事も悩みの種だった。

アドベンチャーレースは幾日間もメンバーと歩き続けなければならない。睡眠も食料も不十分。休む間もなく動けば、当然ストレスは溜まる。しかしそれを口に出すことができないため、やがて不満を抱え込み、それがチームへの不信感となり、チームを破滅へと追い込む。若い選手や経験の浅い選手にありがちな問題だ。

心当たりのある女性アスリートに声をかけた。しかし、返事が先送りとなる。早々にフライトチケットを購入しなくてはいけない。隊長が出した決断は「マチマチを連れて行く」であった。

こうしてチームメンバーが決まり、それぞれのトレーニングが始まった。

ヤマキーは、切迫早産のため入院した愛妻の分まで上の子の面倒を看ながら会社に行った。トレーニングは子どもが寝付いてから行うしかないのだが、ママがいない事に不安があるのか、夜中必ず目が覚めてしまうという。ヤマキーは深夜にランニングすることも。そんな環境である事を淡々と述べているが、実際には、とても大変だっただろうと思う。そんな大変さを顔に出さないのがヤマキーだ。みんなに心配かけないようにしたのかもしれない。出会った時は20歳だったのに、今では、すっかり一家の大黒柱の顔なっていた。

不安を引きずったのはマチマチだった。初めてのことばかりが一気にのしかかり、要領が呑み込めていないようだった。しかし、もうゆっくり教えている時間はない。一気に教えようとする隊長。それをなかなか得られないマチマチ。徐々に溝が深くなっていく。

「マチマチには無理なんじゃないか」そういう意見も出た。しかし隊長は「マチマチと決めたんだから、彼女でいく。ここで逃げていたら、マチマチのためにもならないし、自分たちの成長も止まってしまう。アドベンチャーレースは成長の場でもあるから」と言った。マチマチが隊長に出会ったのも、隊長がマチマチに出会ったのも、大きな意味がある。「合わないから」と組むのをやめるのは簡単だ。しかし、あえて一緒に戦う。自分たちの成長のために。互いの成長のために。

そんな時、私は、マチマチと二人でゆっくり話す機会があった。男性メンバーに責められているように感じてはいないか?負担に感じているのではないか?そんな懸念をしていた。メンバーに温度差があるのは、チーム競技によくあること。思い入れの強い人の熱意についていけない事もある。

それでも気持ちは必ず通じる。ちゃんと話せば解ってもらえる。私は、彼女を責めるのでもなく、彼らを弁解するのでもなく、ただ、見ていて思ったことを伝えた。マチマチが想っているよりずっとずっと、彼らはマチマチが好きであること。一緒に戦おうと決めたこと。私の拙い言葉を、どこまで解ってくれたかは定かではないけれど、それでも彼女は涙を流しながら頷いて聞いてくれた。

その日から、ちょっとずつチームの雰囲気が変わっていった。そしていい感じに仕上がって、ブラジルに向かった。現地にいるジャーナリストの久保田亜矢さんがフェイスブックにこう書いている。
「イーストウインドのチームの雰囲気はとても良く、(パタゴニアのレースはわかりませんが)今まで私がイーストウインドの海外レースを見てきた中で安心してみていられる感じがします」

言いたい事をうまく表現できないのも個性、思ったことをすぐに口に出すのも個性である。今頃は、その個性をぶつけ合い、引き出し合いながら、濃い藪の中を進んでいることだろう。

隊長は、よくこんなことを言う。
「アドベンチャーレースは、漫画のONE PIECEに似ている。其々が其々の目的を抱き、ひとつの船に乗る。目的は違っているのに、行き先は同じ。アドベンチャーレースも、夢や目標は其々異なるけど、チームという船に乗ってひとつの場所を目指す。個性が異なる仲間と乗船して、それぞれの目的に向かう。それが途轍もなく面白い旅になる。僕はそれでいいと思っている」

さて、レースも3日目を迎えた。これから疲労、睡魔、そして予期せぬストレスが迫り来る。どんな過酷な状況下にあっても、イーストウインドは仲間と共にグランドラインを越えて行くと信じている。



posted by Sue at 15:37| Comment(0) | 干物女の行水 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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