2013年04月12日

お嫁さんになったら

かれこれ四半世紀以上も前の話。
私はある人に恋をしていた。自分に自信のない私は、話すどころか、その人の前に出ることもできず、ただ目で追うだけ。それだけで充分だった。見ているだけで恥ずかしかった。淡い淡い恋心。

やがてその人は結婚した。当時の年代から言っても早婚。すてきな人だったから早婚に不思議はない。もちろんうまくいくなんて最初から思ってもいなかったけど、それでも落ち込んだ。こうして望んでいたわずかな奇跡も起こらずして私の淡い恋はTHE ENDとなるわけだが、幕が下りる直前に「自分をお嫁さんにしてくれる人には絶対に尽くす」と決めた。その人が残念がるくらい、いいお嫁さんになりたい!そう思った。

それから10年以上が経ち、私はお嫁さんになった。淡い恋心を抱いた人とは程遠く、メガネをかけた真面目そうな青年に嫁いだ。その青年を「隊長」と呼び、二人で軌道のない道を歩き出した。

そしてまた10余年が経った。

ともに年を重ねるごとに、甘えが許される家族となり、自分の我儘や主張を強くするようになった。家事や育児も互いがやって当然と思うようになった。むしろできてないとイラッとするようになった。感謝も「言わなくてもわかるでしょ」と思うようになった。近くにいることでかえって交わす言葉が少なくなった。

先日、嘔吐下痢で私と娘が同時に寝込んだ。娘は1日中吐きまくり、胃の中がなくなったのか、胃液を吐き続けていた。吐瀉物で汚れたシーツを隊長が何度も取り替えてくれたのを覚えている。私はひどい下痢と頭痛。こちらも出すものがないせいか、一口水分を取っただけで、トイレには這うようにして雪崩れ込む始末。ともかく寝ることにした。

夢を見た。あのときの淡い恋の夢だった。その人は四半世紀前のままで相変わらずかっこいい。四半世紀前と同じく話かけることもなく、目が覚めてTHE END。そしてふんわりと思い出した。「自分をお嫁さんにしてくれる人には絶対に尽くす」と決めたことを。

隊長の介護のおかげで私も娘もすっかり元気になった。娘は給食を残さず食べ、その後も調子良く遊んでいたようだ。私の下痢も完治。1日我慢したコーヒーは格別だった。

仕事に戻ると、今度は隊長が浮かない顔。どうしたの?と聞くと「う~ん、ちょっと…疲れた」と答えた。普段、気弱な言葉など口に出さないはずの隊長の、ボソッとつぶやいた一言に「はっ」とした。

この人には自分にしかできない仕事をたくさん抱えた上に、私と娘の介護という、これまた家族の負担がのしかかっていた。今までに良かれと思って持ち込んだ仕事も実はとても負担になっていたのかもしれない。

アドベンチャーレーサーなんていう屈強な仕事をするくらいだもの、かなり頑丈だと勝手に信じこんでいた。周りに鉄人だのと言われ、相当なことでも平気だろうと思っていた。しかしレースという舞台を下りれば、普通の旦那さんであり、普通の父である。肉体的にも精神的にも疲れる時があって当然だというのに…

なぜ、私はそれを見極められなかったのか。どうして気付かなかったのか。

ともあれ今ここで「大丈夫?」と言えば「大丈夫」と返ってくるに決まっている。そもそも「大丈夫?」という質問は「大丈夫」という返答の枕詞だ。隊長のおかげで復活した腹だ。今度はできる限りのフォローをしていこう。そして嫁として家族を守っていこう。

思えば「自分をお嫁さんにしてくれる人には絶対に尽くす」は淡い恋への、あてつけのような閉幕であった。でも、あのTHE ENDがあってこそ、新たな章の幕開けになった。

あれから四半世紀。第1章閉幕時に沸いた「自分をお嫁さんにしてくれる人には絶対に尽くす」という強い決意は弱まった。新たな章になってからは「自分をお嫁さんにしてくれる人には絶対に尽くす」というよりも「支え合いながら歩いていきたい」と思うようになった。やがて私たちが老い、この章がTHE ENDになる時まで、やり通していきたい。









posted by Sue at 14:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 悪妻のボヤキ | 更新情報をチェックする
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