2016年02月17日

家族の応援

Patagonian Expedition Race (PER) がスタートした。

このレースでは、優勝に手が届きそうで届かない。地球の裏側で行われるこの大会に、どうしてそこまで執着するのだろう。

渡航費は莫大にかかる(特に荷物超過料金)。装備がやたらと多い。配布される地図はいい加減。天候もコロコロ変わる。あるべき道もなければ、あり得ない道もある。時に主催者は押しの強いチームの意見に惑わされる。幾分かマシになってきてはいるけど。

「こんなクレージーなレースによく出るね」シリーズ戦常連チームですら呆れる。それでもこのレースに帰ってくる選手は多い。パタゴニアという手付かずの自然と、チリ人の人懐っこさも魅力のひとつなのかもしれない。

しかし、やはりそれ以上に、PERには『自然に対し、畏怖の念を抱き、それをあるがままに受け入れ、己の力だけで進む』というアドベンチャーレースの真意が凝縮されているのだと思う。だから隊長は挑み続けているような気がする。

近年、アドベンチャーレースはスピード重視となってきた。レースだからスピードが重視されるのは言う間でもないが、付加要素が多いアドベンチャーレースは、スピード以外にも重視されるべく事が多い。男女混成(チーム内ですら体力的に差が出る)、多種目(得手・不得手が生じる)、ナビゲーション(地図読み)が代表的な付加要素だが、何よりナビゲーション力が問われるのが、このPERである。ナビ力がなければ、このレースは勝てない。

しかし、今回は一本道のマウンテンバイクコースが長く取られている。PERもいよいよスピード重視になってきたかと思うと少し淋しくもなるが、どうやら、「確かに存在する道なのに、地図に明記されていない」という事があるらしい。そんなトリック的とも言える地図は「PERにしてやられた!」という感じが否めなくもない。一筋縄ではいかないのがPERだ。

そんな、とてつもなく壮大でエンターテイメントなレースだもの、隊長がこだわる気持ちがわからないでもない。ならば、アドベンチャーレースの真意を追及するために、とことんやったらいい。その生涯を掛けてまで見つけたいものなら、きっと意味がある。家族ができることはフォローする。

・・・なんて見得を切ったことが、娘にしわ寄せが行ってしまった。
隊長がチリ出発間際のある夜、娘が腹痛を起こし、粘血便が出た。翌日はかなり治まり、大事には至らなかったが、ネットなどで調べてみると、ストレスが原因でなることもあるらしい。

装備品で埋め尽くされた狭い我が家。揃って食事を取る時間も少なく、親が深夜過ぎてもゴソゴソ動いているため、寝る時間も短くなった娘。慣れているとはいえ、まだ7歳の子どもにとっては、こんなカオスはかなりの一大事で、大きなストレスになったのかもしれない。

思えば、出発間際は「忙しいから」というバリアを張って、娘の話を充分に聞いてあげてないような気がする。話をしようとしても「後でね」なんてバッサリ切られてしまったら、子どもだってストレスが溜まるのも無理はない。

それを粘血便が出てから気が付くとは・・・。「忙しいから」は大人にとって便利な言葉に想えるが、子どもにとっては一刀両断に邪魔者扱いされたと感じてしまうのかもしれない。

それでも彼女なりにフォローし続けた。空ボトルに柿ピーを詰め、行動食を作った。そして一個一個の蓋にメッセージを書き入れていた。隊長が現地に到着した後も、レーススタート前まで毎日「がんばってね」というメールを送っていた。

しかし、昨日、学校に提出する作文ノートに、こんな事を書いていた。
「お父さんはレースのため、チリにいます。お母さんは、それを中継するために、一日中パソコンに向かっています。ちょっとさみしいです」

そっか。勘違いしてたよ、お母さん。

いつも楽しそうにお父さんとメールのやり取りしてたし、ダブダブの応援Tシャツ着て嬉しそうに応援してるし、私がいつも家にいるんだし、それでいいんだと思ってた。それが二人で隊長をフォローしている事と思っていた。

でも違った。本当はさみしかったんだね。ごめんね。隊長が留守の間、私が本当にすべき事は『あなたを守る』ことだったんだね。

レース中、日本でチームをバックアップすることで、隊長も安心してレースができると思っていた。でも本当は、私が娘を守っていると思うからこそ、安心してレースができているのかもしれない。だとしたら、ごめん。お母さん、勘違いしてた。

今日、学校から帰ってきたら、一緒におやつを食べながら話を聞こう。苦手な跳び箱、飛べた?休憩時間は何して遊んだ?大好きな音楽の時間は何をやった?
お父さん、今頃どうしてるかな?ヨーキとケンカしてないかな?マチマチ、大丈夫かな?ヤマキー、食糧足りてるかな?なんて裏話もしよう。

それがきっと、今まさに日本の裏側で必死で戦っているお父さんが、もっと安心して前に進めるエールになるだろうから。


アキラ作:行動食
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posted by Sue at 11:35| Comment(0) | 愚母の苦悩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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