2021年01月10日

非を認めることは負けじゃない

24年前の1月。初めて南アフリカに行くために名古屋空港に向かった。アドベンチャーレースの世界最高峰『レイドゴロワーズ』にイーストウインドのアシスタントとして参加するためだった。正月が明けた日本は寒さが厳しく、まさに今日みたいな日だった。

当時、スポーツにまったく興味がなく、アドベンチャーレースの趣意やルールなど知りもせずに同行してしまった。目の当たりにしたのは厳しくて怖いチーム主将・田中正人隊長。レイドゴロワーズ南アフリカ大会は、隊長が鬼軍曹と化す端緒となったレースである。

チームメンバーのほとんどが隊長と同年齢で、アドベンチャーレース経験も同程度。ゆえにまだまだ手探り状態での出場だ。性格はそれぞれだが、メンバーは意見を言い合い、それぞれの主張をした。血気盛んな20代半ばの若者らは、時としてぶつかり合い、喧嘩に発展した。

例えば、どちらの方向に進むかで意見が対立したとする。どうにか話し合いや多数決で方向を決めて進む。しかし、そこには思いもよらない深い藪がある。反対意見だったメンバーは「ほらみろ。だから言ったじゃないか」と言い出す。

例えば、後でもう一方のルートを通ったチームに話を聞くと「長雨で地面がぬかるんでしまい、それが永遠と続いていてとても進めなかったよ」という返事。

つまり、どちらのルートも自然に阻まれていたわけだ。そういう意味では、どちらが正しいということもなく、それぞれのチームの特性を活かして通りやすい方が正解なのだろう。(ともあれ、それは後でわかったことであり、チームは常にその場での判断が必要とされる)

話はそこで終わればいい。しかし、多くの場合が、上記の「ほらみろ。だから言ったじゃないか」の後に、最も厄介な“感情”が出てくる。そして「何もわかってないじゃないか。だからお前はダメなんだ」などと人格否定が始まる。こうなってしまうと行くべきルートの選択そのものよりも、相反する意見を持つメンバーを屈服させようとする感情が強くなる。

そもそもメンバーは敵ではない。一緒にゴールをしなくてはいけない味方なのだ。大切な仲間である。そんな味方を屈服させる理由などひとつもないのだ。

自分が間違っていたら、きちんとその誤りを認めること。それは恥ずかしいことでもないし、ましてや屈服などではない。心理学者のアドラーは「人は自分の誤りを認めることが、負けを認めることと思ってしまう」と言う。

そもそもそんなことで勝ち負けを決めていたら、正しい選択などできやしない。ゴールなんてできる訳がない。


さて24年前の南アフリカでのレース。あの夜に大喧嘩したのは、言うまでもなく隊長と、今現在、荒れ狂う海に孤独に戦い続けている白石康次郎くんだ。足裏を痛めた康次郎くんのペースが極端に遅くなってしまったことが原因だ。

その時のチームに必要な議題は「どうしたらペースが上がるか」であったが、疲労困憊の上に睡眠不足が重なり、自然と感情が入ってしまった。
「ちょっとペースを落としてくれ」
「みんな足を痛めてる。それくらい我慢しろ」
そこから互いへの怒りが募った。そしてその夜、嵐のチームミーティングに・・・。
※続きは『アドベンチャーレースに生きる!』(山と渓谷社)をご覧ください。

さて次の朝。驚くことに二人は何事もなかったかのように靴紐を結び、次のポイントを目指す準備をしていた。
どこかスッキリした顔で「行ってきます!」と晴れやかにアシスタントポイントを出ていくイーストウインドの後ろ姿は何か達観したようにも見える。
その時のメンバーのひとりである金子(旧姓:北村)留美ちゃんのひとことが忘れられない。
「私たちで(田中)キャプテンをゴールさせる」
荒れはしたが、結局は白石くんも隊長も互いが敵ではなく、大切な仲間であることを解っていたのだ。


あれから24年(隊長がアドベンチャーレースを始めてからは26年)が経つ。当時のメンバーは、それぞれが今を送る。隊長は、うんと年下のメンバーと共にアドベンチャーレースを続けている。

当時、正論をぶんぶんと振りかざしていた隊長も、この24年の間にたくさん悩んできた。私にも常に悩みを話してくれた。リーダーシップやチームビルディングに関する書物も多く読んできた。そして自分の誤りをたくさんたくさん反省した。そんな紆余曲折を経て、今では昔のメンバーからは「ずいぶん穏やかになった」と言われる。

それでもまだまだ勉強段階。チーム全員が最高のパフォーマンスを出せるようにするにはどうしたらいいか、そのために自分は何をすべきかの答えを探す旅はまだ途中。

24年前の「キャプテンをゴールさせる」という留美ちゃんの言葉は、今では「チーム全員を最高の状態でゴールさせる」という隊長の言葉となっている。
posted by Sue at 17:34| Comment(0) | 悪妻のボヤキ | 更新情報をチェックする
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