2021年06月26日

TJAR 太平洋を目指して

今年もトランスジャパンアルプスレース(TJAR)が始まる。日本で類のない過酷な山岳レースである。
コースは日本海から太平洋。ルートは日本アルプス。距離にして415㎞、標高差27000m。これを8日間で走り抜けろと言うんだから、尋常ではない。

私はこの大会の実行委員の一人である。
大会中に強風が吹こうものなら、山林や低木の中でひたすら耐え忍んでいる選手を想像し、自分は穏やかで涼しい部屋にいるのに心臓が騒ぐ。

「みんな十分にトレーニングをした人たちばかりだもん。きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながらも、彼らの家族の顔が浮かび、気持ちが四分五裂になる。
アドベンチャーレーサーの妻としての経験から、家族の心配はよくわかる。

太平洋のゴールで選手を待つ家族や恋人。満身創痍になりながらもテープを切る選手と家族の笑顔を見る事は、実行委員としても最高の瞬間である。

この瞬間を目指し、出場を希望するアスリートたちは、超高ハードルの出場条件をクリアすべく2年間を費やす。

たった2年。そして特別な2年。

だから私たち実行委員も真剣だ。たった8日間のために2年もの時間を費やす。もちろん完全無償だ。
申込書を受理するのは私の役目。簡単な作業ではあるが、その重みは2年分だ。2年間の、人によっては4年間、6年間、10年間の想いが詰まった申込書である。
「拝受いたしました」
たった一言の返信ではあるが、文字通り拝受しているのだ。

残念ながら書類で不通過になった人もいる。ここまで来るのに、ずいぶんな時間やお金を費やしてきたことだろう。選考する側を責めたくなる気持ちもよく分かる。
私も出場チーム数制限をしているアドベンチャーレースへの出場権を得るため、技術証明書やチームのビデオクリップを作成して送る。新メンバーの経験不足や言葉の壁もあり、出場権を得るのは容易ではない。

選考をする側とされる側。双方の立場を経験する者として言えるのは「落とす事は簡単なことではない」と言うことだ。人を選抜することは本当に苦しいことなのだ。
言葉の壁のないTJARはなおさらである。そして実行委員は半分以上がレース経験者だ。この2年間どんな想いで準備してきたか、気持ちは痛いほどに分かる。

しかし我々は冷静に線を引く。上記に書いた「みんな十分にトレーニングをした人たちばかりだもん。きっと大丈夫」を「絶対に大丈夫」という確信にするために。

ある書類選考で不通過となった人からきた返信文が心に染みる。
「自分の甘さを改めて気付かされ、恥ずかしさとともに、心身を鍛えて出直します」

この人はきっとやるだろう。結果を謙虚に受け止めた事で課題がクリアできる。次回までに鍛錬を積んで、更に強くなって挑んでくるだろう。
大丈夫。山は逃げません。いつもそこに居ます。

間もなくTJAR2020実地選考会が始まる。
そして私たちも強い気持ちで真剣に選考する。
太平洋に辿り着いた時の笑顔を見る瞬間を心待ちにして。


posted by Sue at 00:18| Comment(0) | 悪妻のボヤキ | 更新情報をチェックする
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